働き方改革関連法は2019年4月から施行されました。
中小企業に対しても1年の猶予期間をおいた2020年4月より大企業と同様の時間外労働の上限規制が始まります。
今や働き方改革は無視できない重要な経営課題。
中小企業ではどのような対応を取っていくべきでしょうか。
ここでは、働き方改革で中小企業が取り組むべきポイントを6つにまとめて解説します。
働き方改革は生産性の向上が目的
そもそも、働き方改革とは何なのかを復習しておきましょう。
働き方改革は日本政府の政策です。
「一億総活躍社会」という言葉を聞いたことはないでしょうか。
働き方改革はこの一億総活躍社会を実現するための方策の一つなのです。
日本の人口はこれから減少していきます。子どもが生まれる数が減っているので、十数年先の働き手が減り、全人口中の高齢者の割合が増えます。
いわゆる少子高齢化です。
このままでは、社会保障費は増加する一方で生産力は落ち、日本の経済はどんどん弱くなっていくことが予想されます。さすがにこのままではいけません。
そのため、働き方改革によって、
・少子高齢化の構造的な流れに歯止めをかけること
・家庭・職場・地域でだれもが活躍できる社会の実現
が求められているのです。
働き方改革は中小企業にとって取り組むメリットが十分にある
中小企業にとって最も重要なのは、日本の政策に協力することより、「まずは自社の業績を」ということになります。
しかしながら働き方改革で各種の労働法が改正され、法律によっては罰則までついた形で施行されるとなると、自社の都合ばかり言っていられません。
では、働き方改革に取り組むことは中小企業にとってメリットはないのでしょうか。
そのようなことはありません。
逆にこれからの経済環境に適応した、採用や労務に強い体質になることができます。なにより従業員のためになるので、モチベーション向上につながり生産性は上がってくるでしょう。
法律を遵守し、労働環境や制度を整え魅力的な職場を作る。すると人材確保に有利になっていきます。有能な人材を確保できれば業績向上にも有利に働き、業績が向上すればさらに職場は魅力的になり、人材確保に有利になる。好循環が生み出されます。
働き方改革がもたらす好循環モデル
こうして、中小企業でも、しあわせな働き方や働きがいのある人生が実現されていくでしょう。
日本の経済を支える全体の70%の中小企業がこうしたことに取り組めば、どうでしょう。
中小零細企業も、日本全体も良くなって「WinWin」になると思いませんか。
中小企業が働き方改革に取り組みづらい理由とは
中小企業はその規模の小ささゆえに、一人一人の役割が多岐にわたるため、労働者一人当たりの仕事の量が多くなりがちです。
労働時間の長さや休日・休暇の取得、福利厚生の面で大企業に見劣りするので、人材の確保に苦労します。
人材募集をかけても集まらず、このことがさらに労働時間の増加につながり、退職者が出て人手不足になり、業績が悪化する、という悪循環。
「うちは中小企業だからねえ」といって苦笑いしていても始まりません。
労働人口はもう増えないのですから今後の十数年間はもっと大変になるのです。
この間にも大企業は、その豊富な資金力でどんどん働き方改革を進めてくるでしょう。
その働き方改革の中には、自社でやっていた仕事を外注にしてしまうというものもあります。
飲食業にとっては仕入先にその影響が及んでいき、材料費に影響が出てくることも考えられます。
つまり、中小企業に「しわ寄せ」が来ることも予想されるのです。
こうなってくると、ますます中小企業は働き方改革どころではなくなってくるでしょう。
さらに、近年のSNSの普及でクレーム対応などの顧客対応も難しくなってきました。
顧客対応は最も大切な仕事なのですが、いったいどこまでサービスすればよいのでしょうか。
顧客サービスを充実させることは他店舗との競争を勝ち抜くために必要ですが、度を超すと労働環境の悪化を招く側面があることを忘れてはいけません。
こうしたいくつもの要素が重なるので、中小企業にとって働き方改革は大変困難なことであると言わざるを得ないのです。
しかし「できない」と決めつけて何もしないでいればますます状況は悪くなっていきます。
「働き方改革」は意を決して取り組むしかありません。
中小企業の働き方改革6つのポイント
次に、いよいよ中小企業が働き方改革に取り組む際に気を付けるべき6つのポイントを解説します。
ポイント1.最低限のことが準備できているかチェック
まずは、働き方改革に取り組む前に、人を雇う上での最低限の決まりがきちんと実行できているかもう一度点検してみましょう。次のようなことです。
・労働条件通知書の作成と公布
・36協定の締結、届出
・最低賃金額を上回る賃金の支払い
・残業などの場合の割増賃金の支払い
・労働者名簿および賃金台帳の正確な記載
・就業規則の作成と届出
・定期健康診断の実施
・正社員と非正規社員の不合理な待遇の格差の解消
これらは働き方改革を実施する以前に、最低限クリアしていなくてはならない法律上の義務になります。これらができていないような状態では、働き方改革には取り組むどころではないでしょう。
ポイント2.年次有給休暇と時間外労働の上限のクリア
2019年4月から「年5日の有給休暇の確実な取得」が義務付けられています。
これは使用者が「時季を指定して与えなければならない」とされており中小企業も例外ではありません。
未消化の有給休暇日数がある従業員で今年度5日取得していない人がいないか確認して、取れていなければカレンダーや予定表に記入するなどして計画的に取得させましょう。
さらに2020年4月からは中小企業も残業時間の上限が月45時間・年360時間になります。
月45時間以上働いてしまうことがある従業員がいれば、どうにかこれを短時間にする必要がありますし、それをクリアしていたとしても年間の残業時間合計が360時間を超えないようコントロールする体制を整える必要があります。
残業時間は「ひと月当たり30時間未満に抑える」とか「1日あたり1時間15分まで」など、合計した時に法律の上限を下回るよう決めると取り組みやすいと思います。
ポイント3・勤務間インターバル制度の導入
勤務間インターバル制度というのは努力義務ですが、労働環境をよくして人材確保しやすくするためにはぜひ取り入れておくべき制度です。
たとえば、前の日、深夜23時まで残業しても朝、8時にいつも通り出勤すれば、9時間しか自分の時間はなかったことになります。
ここから睡眠時間8時間と通勤間を引いたら、入浴したり食事したりする時間もなくなります。これでは十分に休めず、健康や仕事のパフォーマンスに影響が出ますし、働くのが嫌になる人も出るでしょう。
こうしたことにならないよう、前の日遅く帰ってきたら、例えば11時間などの一定の間隔(インターバル)をおいて、次の日は遅く出勤してもよいように就業規則を作りましょう、というのが勤務間インターバル制度です。
インターバルを11時間取ることとした場合の就業パターンの例
ポイント4.お客様にも理解を求める
店舗での接客業の場合、店を開けておく間はだれかが働いていなくてはなりません。
法定労働時間より営業時間が長い場合、一人当たりの労働時間が法律をクリアするようにするには、パートの増員などが必要です。でも人員が確保できなければ誰かが残業をしなければならなくなります。また、店長・料理長など、責任上、営業時間中ずっといなければならない状況が出てくる場合もあります。
たとえ、売上が上がらなくても、営業時間が長いというだけで働き方改革に逆行するのであれば、営業時間そのものを見なおすということも視野に入れないとならないでしょう。
また、これまで当たり前のように行っていた顧客に対するサービスも、一部セルフサービス化するなどしたおかげで人件費が浮くということも考えられます。
今行っている営業時間や顧客サービスが「本当に求められているのか」ということを見直した上で、変更をお客様に理解してもらう、ということも必要になってくるでしょう。
ポイント5.仕事の進め方そのものの見直し
従業員が長時間労働を強いられていることが分かった場合、何から手を付けるべきでしょうか。
営業時間やサービス内容が妥当なら、仕事が彼らをそうさせているのだとしたらその仕事の中身を見てみましょう。
たとえば、本部への報告書類作成や締めの作業に時間がかかっていないでしょうか。
その場合は本当に必要な情報だけに絞ったフォーマットに変更したり、ITを活用するなどすれば時間を短縮することができます。
また、翌日の仕込み準備に遅くまでかかったり、開店準備作業で早出するようなことができるだけないように仕入方法を工夫する、あるいは提供メニューの変更などする必要もあるでしょう。
何をするかではなく、何をやらないかを決めていく作業
ポイント6.思い切って業態を変えることも視野に入れる
「ウチでは働き方改革はもう無理だ」というところまで至ったのか、そもそもの業態を変更した例もあります。
たとえば、美容室経営。
激務である上に美容師がいないとできないことから人材確保に苦労している業界の一つです。
苦労して技術を身に着けた直後に辞めてしまう、あるいは女性は結婚・出産を機に引退してしまうということが良くあるのです。
ところが、この経営者は美容師でありながら美容師の仕事をしていない人が多くいることに目を付けて、「カットやブローはしない」ことにしました。「染髪専門」の店にしたのです。
美容師の経験のある人ならブランクが空いていたとしても比較的簡単にできることから雇用も容易になりました。
雇用された人にとっては厳しい美容室勤務から解放され、なおかつ以前と同じ美容師として負担が軽い仕事に従事できるのがメリット。
短時間の勤務も選択できるため、子育て中でも介護中でもその状況に応じた働き方ができます。
中高年の女性から、「美容室に行かなくても安く短時間でできる」と、大評判となり、いまや多店舗展開をしているといいます。
引用:厚生労働省・「働き方改革特設サイト」
休眠美容師を復活させた「染髪専門」の新発想 ―美容室 ウノプリールの場合―
https://hatarakikatakaikaku.hlw.go.jp/file05/index.html
~最後に~ 働き方改革に中小企業が取り組む考え方とは
法律を順守して、できるだけ働きやすくワークライフバランスが取れた、いきいきと活発な職場を作ることが、人口減少社会に生き残る方法です。
生き残るのに大事なのは「環境に適応すること」であり、これまでやっていたことを「あくまでもやり抜く」ことではありません。思い切った発想の転換もふくめて、働き方改革に取り組んでみましょう。