マニュアルと手順書の違いとは?よく似ているが実は異なる役割がある!?目的別に活用・作成するべきものは?

マニュアルと手順書の違いとは?よく似ているが実は異なる役割がある!?目的別に活用・作成するべきものは?
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「マニュアル」と「手順書」、あるいは「説明書」とも呼ばれます。各々、よく聞く言葉かと思います。ともに、仕事を進めるためのルールを定めた文書、といった意味を持つというイメージを持たれるかもしれませんが、この言葉には明確な意味の使い分けがあります。マニュアルも手順書も(あるいは説明書も)、共に異なる目的のもとに作成される文書です。そこで、それぞれの文書の業務に果たす役割を理解し、効果的なマニュアル・手順書を作成し、運用することで、より効率的・高品質なモノ・サービスの生産を目指しましょう。

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マニュアルと手順書の目的と業務での役割は何か

企業活動には大体の業務の流れがあります。製造業や卸売業の企業を例にとりますと、まずお客様から受注を受けると、仕入れ先に発注をし、あるいは自社の生産工場に生産指示を出し、自社倉庫に受注製品を入庫し、お客様と約束した納品日に製品を出庫します。
今、「受注」とか「発注」とか「生産」とか、企業の業務を大づかみにまとめる言葉を使いました。このような業務を区別する単位のことを「プロセス」といいます。実際には、プロセスはもっと細かい範囲で分割されていまして、「受注」であれば、「ネットやファックスで注文を受けたのちに顧客の要望通りの納期・数量の納入が可能かシステムで確認して顧客に返答する」といった程度の細かさに分割をされています。
このプロセス毎に、そのプロセスの業務の概要や、業務を処理する際の原則、そのプロセスに含まれる業務の流れ、絶対にやってはいけないこと、そのプロセスに関する作業担当者と、問題が生じた際のエスカレーション先、そのプロセスが終了した時の成果物が満たしているべき品質基準、そしてそのプロセスに含まれるさらに細かい作業であるタスクの一覧とその前後関係などが明記されている文書のことを「マニュアル」といいます。
そして、プロセスの中に複数あって、具体的に人が実施する作業・行動の動きにまで業務の内容が具体化されているものを「タスク」といいます。そして、この「タスク」を実施するための手順を、作業を行う人の持っている知識や視点を前提として、作業ステップごとに記述した文書のことを「手順書」というのです。
とすると、「マニュアル」とは、ひとまとまりの塊の業務(プロセス)の概要を記述した文書、「手順書」とは、プロセスの中に複数ある1つ1つの具体的な作業のやり方を、ステップ・バイ・ステップで詳細に記述した文書ということができます 。

マニュアルと手順書の目的と業務上果たす機能とは?

マニュアルはプロセスの概要を説明する文書、手順書はタスクの具体的なやり方を記述した文書であることを説明しました。
しかし、そもそもビジネスを営んできた人間が、「プロセス」という考え方を今ほど重視していたわけではありません。「プロセス」という考え方の背後には、予め仕事を進める順序やルール、材料の基準と完成物の基準を定めておき、この通りに業務を実現できるような人・道具・材料・商品を経済活動に当てはめていくようなイメージがあります。
ですが、その昔自然の木材を使って家を建てていた日本の大工達は、まず先に使う木の癖を見て、それからその木をどういう具合に使おうか考える、という現代流の「プロセス」的仕事法とは真逆の仕事の仕方をしていたそうです。大工仲間の格言に「木は(製材された)材で買うのでなく、生えている木で買え。」「木組みの家は寸法で作るな、木の癖で組め。」というものがあるそうです 。先に基準があってこれに当てはまるものを探すのではなく、先にあるのは素材で、そこから同物を作るかを考えるという考え方に立っていたのです。
私があえて、「プロセス」的仕事法とは真逆の仕事法を紹介したのは、現実問題としては、予め予定された通りの人・道具・材料・商品が予定された通りに調達されることは、実務ではそうないからです。想定外の事態が発生した時、皆さんは、手持ちのリソースで、いかに顧客と約束した納期に商品を納入するかを考えなければならないのです。これは、まさに昔の大具たちが、「ありものの木をどう料理して家を作るか」という考え方に通底するものです。マニュアルの第一の目的は、そのプロセスについての業務の標準的なやり方を明示し、担当者に極力その標準的なプロセス通りに仕事をするべきだという基準を示すことにあります。しかし、往々にして担当者は、そのマニュアルが想定していない状況で、その業務を遂行しなくてはならないこともあります。ですから、マニュアルの第二の目的として、異常な状況において、担当者はどのような原則に従って業務を遂行すべきかを、大まかに示すことも必要です。
手順書の目的は、端的に2つあります。第一には、未熟練な担当者であっても、手順書を参照しながら作業をすることによってある一定水準の品質のモノやサービスが提供できるようにできることです。第二には、必ず作業者に手順書を参照させながら作業をさせることによって、作業ミスを防ぎ、且つ作業ミスが生じそうなときに、直ちに事態をより経験ある担当者にエスカレーションさせることによって、状況を速やかに解決できるようにすることです。手順書が想定していない事態の発生したときのことを考慮したときに、手順書にはどのような工夫を凝らす必要があるのでしょうか。これは、手順書の中に正常なケースと正常でない(異常な)ケースを分かりやすく明示し、正常でないケースが生じた場合に誰にその事態を報告するべきかを明確に明記することです。

マニュアルは、その業務を裁量と責任を持って遂行することが期待されている人が参照する文書です。従って、手順書にもマニュアルにも想定しきれなかった事態に対しても、マニュアルに記載してある想定外の事態への解決の指針を参考に、一定の解決を図らなければなりません。一方手順書は、あくまで手順書の記述通りに、正確かつ迅速に作業することが期待されている人のための文書です。従って、手順書の想定外の事態発生時には、速やかにプロセスの担当者への速やかなエスカレーションが要求されるのです。

マニュアルと手順書は説明書とは何が違うのか?

手順書と以て非なるものに、説明書といわれる文書があります。両者の違いはどこにあるのでしょうか。
手順書とは、業務の流れの一単位である「プロセス」の中の、さらに細かい作業の細かい手順をステップごとに書き表した文書です 。一方説明書とは、家電製品などに付属している「取扱説明書」と同じ意味合いを持つ文書で、業務に用いる機器(業務システムや工作機械、複合機等)自体の持つ様々な機能毎に、その機能の使い方を説明した文書になります。
ですから、実際の業務を行うときには、手順書を参照しながら業務を行わなければ正しく業務を行えないのですが、業務を行うために具体的な機器の操作を行うためには、それぞれの機器に備え付けられている説明書を参照しなくては操作ができません。
それでは、手順書の中に説明書を書き足してしまえばいいでないかと思われるかもしれませんが、そうすると手順書自体が冗長になりますし、同じ機器の同じ機能を使っている作業は複数ありますから、手順書に説明書を書き加えるやり方をとるとすると、同じ説明書に当たる記述を何度も繰り替えし書かなければならなくなります。その為に、手順書と説明書は、あくまで別建ての文書として構成し、手順書が説明書を参照する形式をとるようにしないと文章としての整理がつかなくなるのです。

マニュアル、手順書、説明書を目的別に使い分けよう

このページでは、マニュアル、手順書、説明書、の3種類の文書について、それぞれ簡単に説明してきました。ここでは実際の業務の中で、この3種類の文書を、どのように効果的に使い分けるべきか、考えていきましょう。
まず、日常の「プロセス」の業務は、手順書に従って定型的に、正確かつ迅速に処理されるべきです。この際、業務の遂行にミスの生じないように、適宜ダブルチェックやクロスチェックを実施すべきでしょう。業務の遂行に当たって、機器の操作に不明点があったら、機器説明書を参照して、滞りなく作業ができるようにしましょう。ただ、プロセスにおけるタスクの遂行という意味では、あくまで手順書に記載されたステップの実行が主であって、機器説明書の参照は従となります。機器の使い方は、恐らくそれ程パターンが多いわけではありませんから、可能であれば暗記してしまうか、あるいは自分でちょっとしたメモを作成したうえで、一々説明書を参照しなくても済むようになると、業務の効率性が上がり、望ましいでしょう。
同時に、そのプロセスに責任を持つ社員が、マニュアルに準拠しながら、何らか業務の進行に異常のないかどうかに目を配り続けることが大切です。管理者は、作業者からの異常事態のエスカレーションを待つのではなく、むしろ積極的に異常事態の予兆を探る積極的な態度が求められるかと思います。異常事態の予兆は、割合に容易に感づくことができるものです。例えば、作業者の一人が異様に焦って作業に対応していたり、ライン上の部品がある場所で普段より多く滞留していたり、といった、普段と異なるモノや情報の動きがみられるときには、異常事態が現に起きつつある前兆です。このようなときは、担当者に声をかけ、状況の把握に努める必要があります。プロセスに責任を持つ社員は、普段からそのプロセスがその前後のプロセスとの関係においてどのような意味合いを持ち、そのプロセスにおける異常がもたらすインパクトが、後続の工程にどれだけのインパクトをもたらし得るのか、そして会社にとってどれだけの損害をもたらし得るのかをよく把握しておく必要があります。また、なにか異常事態が発生した時に、原因となるであろうことを予め把握しておき、その原因の除去に責任を持つ部署の責任者や担当者との関係を常日頃から良好に保っておく必要があります。トラブルが起こってしまったときの次善の策を取るのに必要な関係部署を想定して、予めそうした緊急対策について話し合っておくことも必要です。

マニュアル・手順書・説明書の違いを把握して活用・作成しよう

この記事では、「マニュアル」「手順書」「(取扱)説明書」という、一見似たように見えて実際には趣旨の異なる三つの文書の違いとそれぞれの業務における使い方について説明いたしました。
業務文書は、作ることがゴールではありません。作られた文書が業務の中で参照され必要に応じて加筆修正されていくという好循環を生み出し、業務文書の中に会社の業務ノウハウが蓄積されていくことにこそゴールがあるのです。
これを実現するためには目的をしっかりと把握してマニュアルを作るべきか、手順書を作るべきか、説明書を作るべきかを検討し、作成していくことが重要です。

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