SECIモデルをご存知でしょうか?ナレッジマネジメントに関心のあまりない方だとほとんど耳にすることのない言葉ですが、企業組織における経営者・管理職で知らない人はいないかと思います。現代の組織マネジメントにおいて必須とも言えるこのフレームワークを知り実践することで、組織の活性化や生産性向上に繋げることができます。
一言でいうと、SECIモデルとは、知識共有のためのひとつの枠組みのことです。
この記事では、知らない方にも知っている方にも基本からわかりやすく「SECIモデル」について説明し、実践的に活用できるツールを紹介しますので、ぜひ最後まで読んで、参考にしてください。
SECIモデルの読み方、考案者は?
SECIモデルは、「セキモデル」と読みます。「SECI」を「セキ」と呼ぶことから推測できるかもしれませんが、SECIモデルは日本発祥です。日本のある大学教授が提唱したモデルで、1990年に発売された書籍から広まったこともあり、世に広まってから約30年ほどの考え方です。
SECIモデルとは「組織の中で埋もれている知識、技術を共有するシステム」
SECIモデルの基本的な目的は「組織の中で埋もれている知識、技術を共有する」ことを目的としています。
組織では様々なひとが様々な能力を発揮して働いていますが、ほとんどの場合、各個人には周囲には知られていないような知識や技術が眠っています。
とりたてて「私はこれができます」「私はこういうことを知っています」と言う機会が与えられない限り、組織内の個人が持つ知識やスキルは目に止まりません。
組織が必要とするスキルのみを発揮すれば組織は回るので無理もないことですし、それ自体が深刻な問題というわけではありません。
しかし、組織内の個人が持つ、いままで埋もれていた知識やスキルを適切な形でチームに共有し、別の個人が必要な知識やスキルを身に付けることができたらどうでしょう。そのときは、それ以前よりもずっと仕事のパフォーマンスや満足度が上がることは容易に想像がつきます。
SECIモデルは、組織内の個人の知識を効果的に共有することで、組織全体の価値を高めていくための考え方なのです。
SECIモデルを構成する4要素。
では、知識の効果的な共有のためにSECIモデルはどのようなアプローチをとるのでしょう?SECIという名前は、知識共有のための適切な順序を示してくれています。
SはSocialization(共有化)、EはExtemalization(表出化)、CはCombination(連結化)、IはInternalization(内面化)を表しています。
この4種類のプロセスを通して、組織内の個人の知識やスキルを共有することができます。以下にひとつひとつの手順を詳しくみていきます。
S=Socialization(共有化)
最初の手順は、ある個人の中にある知識やスキルを、他人に移転させる段階です。この段階はいわゆる「見て学ぶ」段階で、職人の技を新入りがマネして覚えるのにも似ています。
次の表出化との大きな違いは、この段階ではスキルや知識が名前や文章で表現されていないという点です。先輩と後輩の間でのみ知識がやりとりされており、当人同士以外には見ることも触れることもできない状態で知識が共有された状態です。一般的な組織やチームで自然に起きている現象と言えるでしょう。
E=Externalization(表出化)
表出化プロセスは、共有化された知識やスキルに適切な名前がつけられ、文章などで表現されます。必要であれば図や写真が用いられるかもしれません。マニュアルを作成するようにして知識がパッケージされ、誰が見てもその知識を得ることができる状態になります。
この時点で、ずっと「暗黙知」の状態であった知識が、誰もが知ることのできる「形式知」に変化しました。
C=Combination(連結化)
3つ目のプロセスは「連結化」です。
表出化によって形式知となった知識同士を「連結」させることで、新たな知識や効率的なプロセスを生み出します。複数の個人の中に暗黙知の状態で眠っていた知識が形式知となることで、組み合わせや、不足分を補うといったことが容易にできるようになります。
連結化の時点では机上で知識と知識を結びつけるだけなのでまだリアリティは薄いですが、連結化を経て4つ目のプロセスに至ることで、SECIモデルの目的である、業務のパフォーマンスや満足度の向上が得られる可能性が高まります。
I=Internalization(内面化)
最後の段階の内面化では、連結化によって作られた知識を、再び各個人に落とし込みます。連結化の時点では知識やスキルは形式知でしたが、内面化プロセスで何度も反復して練習したり、実際に試してみることで、体に落とし込みます。
いわば、一度形式知となった知識を再び暗黙知に戻すプロセスです。
しかしその暗黙知は、何もしなかった時の暗黙知とは違い、SECIモデルを通じて表出、連結されたあとの暗黙知なので、より高いパフォーマンスを発揮することが期待されます。
SECIモデルを活性化するためのツール
ここまででSECIモデルの考え方について紹介しましたが「さぁ、SECIモデルで知識の共有をしよう!」と改めて何かイベントやオリエンテーションが行われることはほとんどありません。
実際には、日常的な業務の中で「共有化」が行われ、休憩室やランチタイムの雑談で個人の持つ知識やスキルがほんの少し顔を出ても、それっきりということがほとんどです。
実は、SECIモデルをはじめとした知識の共有には、ITのツールが非常に相性がよいです。
以下に、SECIモデルを活性化するためのツールについていくつか紹介していきます。
ChatworkやSlackなどの従来のツール
知識を共有するためのツールと言っても、基本的な機能はメッセンジャー系ツールで十分にことが足ります。特に各個人の知識やスキルを掘り起こすためには「共通の関心ごと」「共通の話題」が必須になります。
チャットワークやスラックなどの従来の仕事用のメッセンジャーツールであっても、メンバー全員が見れるスレッドで興味のある記事やニュースのURLを放り込むだけでも、一応は共通の関心ごとの土台となります。とはいえ、ただURLを投げ込むだけでは知識の共有に至るほどのコミュニケーションのきっかけになるとは思えません。加えて、数十名が見ているスレッドに自分が見たニュースのURLをわざわざ投げ込むのは、心理的ハードルは高いと言えるでしょう。
vein
従来のチャットツールを使った知識の共有に限界を感じて作成されたのが「vein」というサービスです。veinは、「SECIモデルにおける暗黙知の共有」をコンセプトにして作られたURL共有サービスです。
veinは、わざわざ共通のスレッドにURLを放り込むような厚かましいことをしなくても、ただ自分の読んだニュースやブログの「既読にする」ボタンをタップするだけで、チームメンバーにその記事を読んだことが伝わる仕様になっています。
この結果、チームメンバー内で興味・関心ごとが共有される形になり、結果的に暗黙知の掘り起こしが促進されることになります。
Docbase
メッセンジャーアプリではなくても、SECIモデルを実行するためのツールはあります。「Docbase」というドキュメント共有ツールは、必要なメンバーに、必要な書類を共有するのが簡単になるツールです。
普通のドキュメント共有ツールは、ファイルが多くなりすぎて検索性、閲覧性が低いものが多いですが、Docbaseではキチンとタグつけして保管することで、あとからでもドキュメント検索を容易にすることができます。
シンプルな操作画面、共有画面により、気軽に投稿、検索ができるので、他のメッセンジャーアプリのように投稿の心理的ハードルが上がりすぎません。
このようなツールを利用して、気になったニュースや議事録、ちょっとした雑談や立ち話を記録して共有することで、思わぬ暗黙知が見つかり、知識を共有する機会が見つかるかもしれません。
ClipLine
ClipLineは組織における暗黙知を形式知化し、組織全体に共有することで生産性向上や業績向上をサポートする教育マネジメントクラウドサービスです。飲食店や介護・ホテル業・小売など他店舗経営型のチェーン企業においては、各々の店舗ごとに独自の施策や業務のバラツキが発生しており、サービスの均一化や質の担保が課題となっていました。ClipLineではこの課題を解決し、他店舗経営型企業の業績向上までサポートすることを目的として、クラウド教育サービスとコンサルティングサポートを行なっています。具体的には企業に眠る暗黙知、いわゆる業務や体系的ではないマニュアル、施策などを動画化し、クラウド上で配信することで、店舗ごとに眠る知を横展開し共有することができます。実際にこのサービスを導入し、業績がV字回復を成し遂げた企業は多数あり、その業界は飲食から小売まで幅広く存在します。企業経営において暗黙知を形式知化するサイクルが欠かせない現代では、ClipLineの担う役割は非常に重要なものになっています。
SECIモデルを現場で活かすには
この記事では、SECIモデルの読み方から始まり、その内容、活用のためのツールまで紹介しました。
SECIモデルのような知識共有モデルは他にもありますが、うまく活用することで組織のパフォーマンスや社員の満足度を上げることができるので、非常に役立つフレームワークと言えます。
しかし一方で、どうしても抽象的な話や机上の空論になりがちで、しっくりこないところも多いでしょう。ツールを活用し、実際にメンバーと協力していく中で、少しずつ知識が共有される感覚を掴んでいくことが大切なのではないでしょうか。